腹部の病気
胃 STOMACH
胃潰瘍
(重要度:★)
- 動物も一番の原因はストレスです。
- 特に猫はストレスを受けやすく、家族によっても好き嫌いが激しいため起こりやすい。
- 動物は日本人ほど胃弱ではありません(日本人は世界で一番の胃弱の民族と言われています)ので、大部分は自然治癒力で治っているものと考えられます。
- 異物(毛や小さなオモチャ等)の誤食で、それが胃粘膜でこすれて傷をつけ、ストレスと胃酸過多で胃潰瘍になるものと考えられます。
- 人のように定期的な胃カメラの検査をしませんので、発見が遅れます。そのため、吐物に血液が混ざって発見されることが多い。
- スマホで吐血・吐物の写真を撮って来られる飼い主さんもおられます。
- 治療は人と同様で胃酸を抑える薬の内服とストレスを与えない(これは至難のワザですが)。
小腸~大腸 SMALL INTESTINE TO LARGE INTESTINE
腸炎【急性・慢性】
(重要度:★★)
- 原因は色々ですが感染か食物アレルギーによるものが大半です。
- 症状は下痢。ごくまれに便秘と下痢の繰り返し。
- 小腸の病変では嘔吐がある時も。
- 最近の獣医消化器内科の発達はめざましく、色々なことがわかってきました。
- 昔は、犬は長期間常温で放置した物や道ばたに落ちている物等を食べても下痢はしないと思われていましたが、それは間違いです。
- 最近は犬猫の腸内フローラ(腸内細菌叢)の研究も盛んに行われています。
- 腐敗していないと思われている食品でも、開封して日数が経つと雑菌が増えたり、ダニが湧いたりして感染やアレルギーを起こすことがあります。
- 下痢までには至らなくても、腸内細菌叢に変化が生じていることがわかってきました。
- 動物でも腸内細菌に悪玉菌が増えると免疫系にも悪影響を及ぼします。
- ドライフードは乾物ですから、封を開けていてもすぐには腐らないと思われています。しかし、開封したら少なくても2週間以内に使用してください。大袋で購入すれば割安になりますが、お勧めできません。
- 食物アレルギーに関しては非常に優れたフードが療法食として、動物病院で入手可能です。
慢性腸症
(重要度:★★★)
- 犬に慢性の消化器兆候を起こす原因不明の慢性胃腸炎。
- 以前は蛋白漏出性腸炎/蛋白喪失性腸症とか呼ばれていた病気。
- まだ解明されていないことが多い病気です。
- 最近少しずつわかってきた病気なので、年々増加傾向にあります。
- 猫は多くない。
- 柴犬に多く、治療に対する反応が鈍く短命に終わる。
【現在の診断基準】
- 慢性の消化器兆候が3週間以上続く。
- 病理組織学的検査により胃腸粘膜の炎症性変化が明らかである。
- 胃腸に炎症を起こす原因や慢性消化器兆候を起こす他疾患が認められない。
- 対症療法(下痢止め)には完全には反応しない。
1.食餌反応性腸症
- 低アレルギー療法食で好転する。
2.抗菌薬反応性腸症
- 抗菌薬の投与で好転する。
3.免疫抑制剤反応性腸症
- 免疫抑制剤の投与で好転するが、安定した状態が長期間持続しない。
- 薬効が落ちてきて、徐々に効かなくなってくる。そのためにあまり長生きはできない。
- 長期の免疫抑制剤の使用で、色々な感染症にかかったり、体の恒常性の維持できなくなり短命。
- リンパ管拡張症が有名で代表的な病気です。
4.治療抵抗性腸症
- 残念ながら治療効果はほとんどありません。
膵臓 PANCREAS
膵外分泌不全症
(重要度:★★)
- 膵液(消化液)の分泌不足で、脂肪の消化不良のため起こる。
- 大便は酸っぱい臭いがし、ベタベタで光沢のある下痢~軟便になる。
- 消化剤と低脂肪療法食で治療する。予後はそれほど悪くはない。
膵炎
- 動物の膵炎は、まだ症例が少ないため原因はハッキリとわかっていませんが多分人と同様、自己免疫疾患の可能性が高いと思われます。
1.急性膵炎
(重要度:★★★)
- 軽症例では嘔吐、軽度の腹痛や食欲不振の症状。
- 重症例では急性腹症、多臓器不全、DICに波及し激しい腹痛、脱水、虚脱、ショックを呈し死亡率が高い。
2.慢性膵炎の急性増悪期
- 急性膵炎と同様の重度の嘔吐、脱水、ショック、多臓器不全を起こす。
- 急性膵炎との区別はつかないことが多い。
特に動物では急性と慢性の線引きが困難なことが多いため。
ただ、治療に関しては大差はありません(同じです)。 - 急性と慢性膵炎の急性増悪期の治療は緊急を要すため、様子をみているとショックを起こし高率で死亡する。
3.純粋な慢性膵炎
- 明瞭な症状があまりないのと、動物は自覚症状があっても訴えられないため、診察を受けることがほとんどありません。
- そのため、慢性膵炎は見過ごされている可能性が高いと考えられています。
【治療】
- 現在新しい薬が開発され、3~5日間の投与で好転するのが多くなっています。
1型糖尿病
(重要度:★)
- インシュリンの欠乏で犬猫ともに起こる。
- 治療はインシュリンの注射となります。
- 血糖値を下げる薬の内服・カロリー制限・運動では治りません。(これは2型糖尿病の治療)
肝臓 PANCREAS
肝細胞障害【肝炎】
(重要度:★★)
- 原因はいろいろ(肝臓が悪くなるのは酒だけではありません、犬は酒を飲まないのに何故か肝疾患が多いようです)。
- 初期はほとんどが無症状。
- あっても時々の食欲不振や嘔吐(吐き気)、何か少し元気がない等、ハッキリした症状が無いためスルーされていることが多い。
- 血液検査でAST(GOT)・ALT(GPT)・ALP・γ-GTP等の上昇。
肝機能の低下と肝不全
(重要度:★★)
- 肝細胞障害を放置すれば、肝機能の低下や肝硬変(肝不全)に進行します。
- 血液検査で総胆汁酸(TBA)の持続した上昇がみられる。
- 肝硬変まで放置すると治療の方法がほとんどない(対症療法のみ)。
腎臓 KIDNEY
腎炎
【急性・慢性】(重要度:★)
- 尿に、持続して蛋白が出て低蛋白血漿になり、身体に色んな不具合が生じる。
- 慢性化すれば、後述のCKDになる。
腎盂腎炎
(重要度:★)
- 包皮や膣の感染 → 尿道炎 → 膀胱炎 → 腎盂炎~腎盂腎炎へと進行する。
- 発熱や急性腎不全を起こす。
- 腎盂炎や腎盂腎炎は早急に治療しないと命を落とすことが多い。
慢性腎臓病
【CKD:Chronic Kidney Disease】(重要度:★★★)
- 以前は慢性腎不全呼ばれていたが最近、人も動物も世界的にCKDと呼ぶように統一された。
- 腎臓は主として老廃物や毒素の排泄と水分のバランスの調整をしています。
- 体重が約10Kgの犬の腎臓では尿を作る器官(ネフロンとか腎小体と呼ばれる)が、左右の腎臓で約80万個あると言われています。
- 身体の大きさで大体の数が決まっているようです。
- そのため、小型犬や猫ではもっと少ない。
- ネフロンが色んな原因で徐々に壊死(破壊)し、その数が減少していきます。再生はできません。
- 腎臓は使い捨て臓器と言われています。
- そのため年齢を経ることにCKDが増加します。
- 高齢での発症は「年のせい」と、スルーされてしまう恐れがあります。
- ネフロンが減少すると、高窒素血漿→腎機能の低下→腎不全→尿毒症と進行します。
- 人も動物もネフロンの壊死を止める方法は見つかっていません。
- 一般的な血液検査や尿検査で異常値が出るのは残存しているネフロンの数が25%以下(75%が失われた時機)になってからです。そのため早期発見の難しい病気と言えます。
- 最近、もう少し早い時期(約40%が失われた時期)に検出可能な検査(SDMA)のプロジェクトが発表されました。当院も参加しています。
【慢性腎臓病の治療】
- 人では進行すれば透析(人工腎臓)や腎移植となりますが、動物では透析のために体を拘束することの困難さや高額費用のため現実的ではありません。
- 治療は脱水を起こしますので、水分の補給が主力です。
- 動物は人のように意識的に飲水してくれませんので、水分の補給を皮下点滴で行います。
- 血管点滴のように長時間はかかりませんし、費用も血管点滴より安価です。
- 老廃物(尿毒素)の排泄には優れた内服薬があります。
- 腎性高血圧を起こし、ネフロンがより早く破壊されます。
- 血管拡張剤で対応します。
- あとはそれぞれの症例に合わせた飲み薬の併用となります。
- 診察した時の病気の進行度にもよりますが、これで何とか平均寿命近くまでの延命が可能な動物もいます。
膀胱~尿道 BLADDER-URETHRA
細菌性膀胱炎
(重要度:★)
- 尿意頻回(頻尿)、血尿やトイレ以外の場所での排尿等。
- 雌犬で多い病気です。
- 抗菌剤で治療。
- 猫は膀胱炎だけを起こすことは少なく、下記の猫の下部尿路疾患に該当します。
猫の下部尿路疾患
(重要度:★★★)
- 排尿困難・頻尿・血尿・腹部痛・不適切な場所での排尿等の諸症状。
1.尿路感染症
- 猫は酸性尿なので、菌の感染は非常に少ない。
2.尿道栓子
- オス猫の尿道で栓子が詰まって閉塞し、力んで排尿しようとするが、尿は出ず、ウンチが出るので便秘と勘違いされる。
(栓子=膀胱や尿道の垢と尿石との混合物) - オス猫の尿道は細くて長いため起こりやすい。
- 放置すると排尿できないため尿毒症になり死亡する。
3.尿石症
- 多くは蓚酸カルシウムやリン酸アンモニウムマグネシウムの結晶が膀胱や尿道で析出して排尿障害を起こす。
- 原因は不適切で粗悪なドライフードの給餌と、猫は飲水量が少ないため濃い尿になり起こる。
- 尿道栓子と尿石症は市販のドライフードが原因です。動物病院にある尿路疾患用の療法食で治療、維持が必要です。
4.特発性膀胱炎
- 神経系の異常・膀胱壁の障害・ウィルス感染等々。
- 殆どは3-7日程度で臨床症状が消失するが、再発を繰り返す。
- 再発率の低下には尿路疾患用の缶詰の療法食が推奨されています。
- ドライフードより水分が多く取れるため缶詰です。
肛門 ANUS
肛門嚢炎
【肛門臭腺炎】(重要度:★)
- 肛門嚢は犬や猫が敵に襲われた時やビックリした時に、クサイ“におい”を出して、相手がひるんだ隙に逃げるために付いてある防御装置。その代表がスカンクです。
- 飼育動物では、敵に襲われることやビックリすることもほとんどありませんので、肛門嚢液が溜まったままで排出されず、また肛門のすぐ横に開口部があるため、大腸菌等の感染を受けて化膿し、ひどい時は肛門の左右が破れて穴があきます。
- 予防は定期的に肛門嚢を絞って中の液を出します。